前職は心理カウンセラーでした。
コミュニケーション・スキルが必須の職業です。
言語的なものにかぎらず、非言語的なものも含めて探求しました。
前職の頃に書いた論文の一部を紹介させていただきます。
ただしメインの部分ではなく、逐語録(録音テープを起こしたもの)の部分(及び簡単なクライエントの症状歴)にかぎっての紹介となります。
もはやメインの部分は、私の中で「しっくりこない」内容となっていますので。
この論文を書いた当時、非言語的コミュニケーションを記述する方法を確立しておらず、言語的コミュニケーションの部分しかお伝えできないのが残念です。
実際の場面では、非言語的コミュニケーションによる影響が大きかったと記憶しています。
皆さんには、逐語録の端々からそれを読み取っていただければ幸いです。
ちなみに、ボディワークの手技は非言語的コミュニケーションに含まれる技術に違いありません。
〔ケース〕
クライエント:女 55歳 主婦
家族:夫(58歳) 長女(21歳) 長男(18歳)
主訴:強迫行為
症状の概要:洗剤、薬物、殺虫剤等に対して極度の嫌悪感があり、それらを見ると、触れていなくても触れたような気がして、手の洗浄の繰り返し行為を行なう。繰り返しの回数は、10回の場合と70回の場合との2通りがある。家族の者が説得してやめさせようとすると、症状はかえってひどくなる。最近では家族関係もうまくいかなくなっている。
問題の経過:18年前、第ニ子出産の直後、ホウ酸で生殖器を洗い、そのまま炬燵に入ったところ、激痛とともに子宮から頭に抜けるようなしびれがあった。それ以来、上記のような症状を持つようになった。1年後、某病院で薬物療法を受けたが、症状に変化はなかった。夫、長女に付き添われて来談した。
*面接は全部で4回行なわれたが、ここでは第3、4回面接の逐語記録の一部を掲載する。
〈第3回面接〉
(略)
カウンセラー(以下「カ」と略す):あなたがおっしゃるのは、(洗剤、薬物、殺虫剤等を見たり、触ったりした時の)気持ちの悪さによって、手を擦る回数が違ってくるということですね。で、その回数に2通りあると。
クライエント(以下「ク」と略す):はい、そうなんです。
カ:1つは、一所懸命洗わなくちゃならなくて、ちょうど70回擦るっておっしゃいましたよね。
ク:はい。いつも・・・70回擦ると・・・自分じゃね、20回くらいだと思うんですよ。ですけど、主人がそばで数えてると、70回って、ちょうど70回擦ってるって。
カ:で、もう1つは少ないほう。10回でしたね。
ク:はい。10回の時もありますし、5、6回の時もあります。
カ:5、6回の時も?
ク:ええ。でも、主人は10回だって。やっぱり10回なんでしょう。
カ:それぞれ、どんなふうに擦りますか? 多いほうから教えてください。
ク:そうですねえ・・・1・2・3が一番いいみたいですね。
カ:1・2・3?
ク:1・2・3、1・2・3。
カ:1・2・3、1・2・3?
ク:1・2・3、1・2・3・4・5、1・2。
カ:今、実際にやってみていただけませんか?
ク:だから、(両手を擦り合わせながら)1・2・3と、こんなふうですね。
カ:続けてみていただけません? いつもやるように。
ク:だから、(数に合わせてリズムをとりながら両手を擦り合わせる)1・2、1・2・3、1・2・3・4・5で、また、1・2・3・4・5、1・2、1・2・3で、これでやめられればいいけど、また、1・2、1・2・3・4・5、1・2・3でしょう。始まったら、もう止まらなくて、1・2・3と、どんどん。(かなり速く擦り合わせ始める)1・2・3、1・2・3・4・5、1・2。1・2、1・2・3、1・2・3・4・5。1・2・3・4・5、1・2、1・2・3と。もうこんなふうに。あれっと思っても止まらなくて。
カ:じゃ、少ないほうは、どうやります?
ク:だから、少ないほうは、1・2・3・4・5・6、1・2・3・4で終わって、10回です。
カ:少ないほうは、(クライエントを真似て)1・2・3・4・5・6、1・2・3・4で終わって10回ですね。
ク:はい。1・2・3・4で、1・2で、1・2・3・4で、これでも10回になります。だけど、これは少ないほうで、多いと、1・2・3・4・5、1・2・3、1・2。これが延々と続くんです。1・2・3・4・5、1・2・3・4・5もあるし、1・2・3、1・2、1・2・3・4・5もあるし。途中で終わらそうと思っても、分からなくなっちゃって、また始めからやるんですから。だから、分からなくなるくらいなら、分からなくなるほど洗ったんだから、やめろって主人に言われるけど、それじゃ気が済まない。もう40回だ、もう50回だ、もう60だ、さあ、終わりか、なんて言われて、どうにもなさけないし。
(略)
カ:ですから、2通りありますね。で、気持ちの悪さを感じられて、手を洗いたくなる時に、どちらのほうか、つまり、多く擦らなくちゃいけないほうか、少ないほうか、自分で分かりますね?
ク:ええ、もちろん分かります。感じますもの。
(略)
カ:で、その時にやっていただきたい課題があるんですが。
ク:はい。
カ:これは、正確にやっていただきたいんです。
ク:何をやればいいんでしょう?
カ:気持ちの悪さを感じて、手を洗いたくなりますね。その時に、多いほうだと感じたなら、80回擦ってください。
ク:はい。80回。
カ:必ず80回。それより少なくちゃだめですよ。必ず80回。
ク:あ・・・そう。
カ:80回より少なくちゃだめですよ。
ク:80回・・・
カ:分からなくなると困るんで、数え方も決めておきましょう。
ク:どういうふうにすればいいんですか? 数なんて分からなくなっちゃうんですよ。
カ:まず、ゆっくり擦りましょうよ。こうじゃなくて(両手を速く擦り合わせながら)。ゆっくり、しっかり、丁寧に擦ったほうが、きれいにとれるでしょう?
ク:あ、そうですよね。
カ:ですから、ゆっくりと。ちょっと同じようにやってみてください。こんなふうに(ゆっくりと両手を擦り合わせてみせる)。
ク:あの、こんなふうですか?(カウンセラーを真似る)
カ:(数を数えながら、ゆっくりと両手を擦り合わせ始める。クライエントもそれに合わせて擦り始める)1・2・3・4・5・6・7・8・・・(数え続ける)・・・42・43・44・45、だんだんゆっくり、47・48・49・50・・・(数え続ける)・・・77・78・79・80。こんなふうにやってください。
ク:先生、こうやって(両手を拝むようにして擦り合わせる)擦るんですか?
カ:どうやって擦るのが一番いいですか?
ク:ん・・・(両手を擦り合わせる)こっちの手を洗うでしょ。最初に、1・2・3で洗って、今度はこっちを洗ったほうがいいかな。だから・・・
カ:だから、最初に、1・2・3で洗ったら、今度はこっちを洗う時には、4・5・6ですね。1から80まで、ずーっと通して数えます。
ク:こうやっちゃったほうがいいでしょうね、先生。こう(片方の手の指先を反対の手の手首のところまでもってくる)。こういうふうにやるほうが洗えますものねえ。
カ:そうですね。洗えますね。では、こうやって(クライエントを真似る)。
ク:そうですね。
カ:1・2・3・4・5。
ク:ああ、そうですねえ。それなら・・・
カ:それで、声を出して数えてください。
ク:声を出すの?
カ:出すの。
ク:(笑い出す)
カ:出してください。・・・出してください。
ク:近所に(笑いながら)。
カ:近所に聞こえますか?
ク:聞こえますよねえ。私は、大きな声なんですよねえ(笑いながら)。
カ:では、小さな声で。小さな声でいいですよ。
ク:あ、そうですか?
カ:ちょっと、練習しましょう。今やってみてください。1・2・3・4・5。
ク:(両手を擦り合わせる)1・2・3・4・5。
カ:その声で聞こえますか、近所に?
ク:聞こえますねえ。
カ:では、もう少し小さな声で。
ク:あのう、口で・・・頭の中で数えるだけじゃなく、口で言ったほうがいいですか?
カ:間違えやすいし、分からなくなりやすいでしょう? そうすると、余計に大変でしょう?
ク:(両手を擦り合わせながら)1・2・3・4(4からカウンセラーも一緒に数え始める)・5・6・7・8・・・(数え続ける)・・・77・78・79・80。あのう、手の平はきれいになりますよねえ。だけど、指の間はきれいになりませんねえ。
カ:では、どうします?
ク:こうですねえ(指の間も擦る)。
カ:なるほど。(クライエントが示した擦り方で擦りながら)1・2・3・4・5・6・7・8。いいですね。9・10・11・12・13(13からクライエントも一緒に数え始める)14・15・16・17・18・19・20(20からカウンセラーは数えるのをやめる)。
ク:(両手を擦り合わせながら)21・22・23・24・25、ああ。
カ:洗い方はどんなふうでもいいですよ。きれいに洗えると思われれば。
ク:あ、どんなふうでもいいわけですか?
カ:だけど、数は通して。それから、ゆっくりと数える。
ク:あ、ゆっくりね。
カ:ゆっくり数えたほうが、丁寧にゆっくり擦ったほうが、とれますでしょう?
ク:そうですねえ。
カ:いいですね?
ク:はい。
カ:それで、少ないほうは、15回にしましょうか。
ク:ああ、15回。やっぱり同じように?
カ:ええ。同じように。
ク:分かりました。
カ:数えているうちに、もし飽きてしまって、途中でやめたいと思われても、必ず最後まで数えてください。数を通して、ゆっくりと。
ク:そうですか・・・
カ:途中でやめないでください。多いほうは80まで必ず数えます。少ないほうは15まで必ず。いいですか? それより少なくちゃだめですよ。
ク:あの・・・かえって悪くなりませんか? そういうのは・・・いいんですか? 洗っちゃっても・・・
カ:ええ。洗ってください。次回までの1週間だけですから。いっとき悪くなったように思われるかもしれません。ですが、必要なんです、この課題が。確実に良くなっていくために。それと、もう1つお願いがあります。
ク:はあ・・・
カ:観察をお願いしたいんです。あなたの症状の仕組みを、はっきり知っておきたいんです。そのために、すすんで症状を出していただく、つまり洗っていただくわけですが、その時の自分の気持ちや、心の中に起きることを観察していただきたいんです。ですから、洗うだけでなく、きちんと観察もお願いしておきます。いいですか?
ク:ああ、その結果を見て・・・
カ:ええ。その結果を見て、これからの治療方針を決めていきましょうよ。そのほうが、
ク:ああ、そのほうが正確に方針が・・・という・・・
カ:そうですね。そう思われませんか?
ク:そうですね。
(略)
カ:もちろん、ご主人やご家族の方には、今日帰ったらきちんとお話ししてくださいね。これは課題だからとおっしゃってください。内容も具体的に話して。これをやらなくちゃならない理由もね。よろしいですか?
ク:はい。
カ:どういうふうに話されます?
ク:これは課題だからと言って・・・回数をゆっくり通して、少ないほうは15回で、多いほうは80回・・・
カ:それより少なくちゃだめですよ。それに、声を出して数える。1・2・3・4・5・6・7・8と。
ク:でも、それでも分からなくなっちゃうかもしれません。そうしたら・・・
カ:そんな場合もあるかもしれませんね。ですが、かまいません。分からなくなったら、数え直してくださればいいですよ。80回以上になるかもしれませんが、それはかまいません。でも、少なくちゃだめですよ。たとえば、1・2・3・31・32・33なんて、とばして数えたりしちゃだめですよ。重なって数えるのはいいです。80以上だったら、まあいいでしょう。15回のほうもそうですよ。
ク:はあ・・・
カ:80回より、または、15回より少なくしないでください。いいですか?
ク:はい。
カ:では、もう1度聞かせていただけません? どう話されるおつもりか。
ク:・・・課題だということを言って・・・ん・・・
カ:課題だということを言って、その課題の内容もおっしゃってください。
ク:ああ、はい。
カ:課題の内容ですが、気持ちの悪さを感じて、手を洗いたくなりますね。その時多いほうだと感じたなら、80回手を擦ります。1から80まで必ず通して、ゆっくり声を出して数えます。少ないほうだと感じたなら、15回擦ります。やはり1から15まで必ず通して、ゆっくり声を出して数えます。で、観察も忘れません。
ク:ああ、観察も・・・ですね。
カ:そう。症状の仕組みをはっきり知って、治療の方針をきちんと立てるためでしたね。ですから、すすんで洗っていただいて、そのうえで観察ということです。
ク:ええ・・・だけど・・・できるかなあ、こうした課題が・・・
カ:まあ、大変ではありますよねえ。
ク:ええ。
カ:たとえば、こんなふうに考えてみてください。・・・ええと、あなたも娘さんも、お魚が好きだとおっしゃってましたよねえ、たしか? 変な例なんですが、お魚を料理する時、まな板の上にのせないと、料理しにくいですよねえ。泳いでるお魚なんて、とても料理できませんでしょう? この場合もそうなんです。特に、18年もずっと自由に泳いできた症状ですから。まず、きちんとまな板の上にのせて、症状をはっきりさせてからでないと、きちんとした治療ができませんでしょう?
ク:ああ、そうですよねえ。それはそうですねえ。ん、だけど・・・
カ:大変だと思われたら、こんなふうにしてみてください。手を擦るほうではなく、数を数えるほうに集中するんです。だって、擦るほうは、長年やってらして体が覚えてるでしょう? だから、数えるほうに集中するんです。
ク:ああ、数えるほうにね。
カ:分かります?
ク:ええ、分かります。
カ:ただ数を数えるだけなら、80までなんか簡単に数えられますものねえ。ですから、そんなつもりで。どうですか?
ク:そうですねえ・・・
カ:どうでしょう?
ク:これは・・・あれですか? あのう・・・我慢できれば・・・手を洗うのを我慢できれば、やらないでいいですか?
カ:我慢できれば、というと?
ク:つまり、洗わなくても大丈夫なんだと自分で納得すれば・・・というか・・・もしも洗わなくても大丈夫だと思えたら、洗わずにいたほうがいいですよねえ? ・・・だって、そんな時に観察しても、きちんとできませんでしょう? もう大丈夫だと思えたなら、その時には症状が出てないわけですものねえ。だから、観察しても・・・
カ:ん・・・
ク:だって、そうですよねえ?
カ:大丈夫だと思えたらねえ。まあ、しかたないですね。そんな時は洗わなくていいでしょう。ですが、ほとんどの時は、大丈夫だと思えないんじゃないかと思うんですよ。ですから、大丈夫だと思えなかったら、必ず課題をやっていただけません?
ク:ええ、それはそうですね。分かりました。あのう、まな板にのせるんですね(笑う)。
カ:必ずですよ、必ず。さぼらないでくださいね。では、しつこいようですが、もう1度おっしゃってください。ご家族の方にどういうふうに話されますか?
〈第4回面接〉
(略)
カ:まず、課題をやられた結果を教えていただけませんか?
ク:ん・・・きちんとは、できなかったですかねえ・・・
カ:きちんとはできなかったですか?
ク:先生に怒られちゃうかもしれませんが(笑いながら)、あれから、我慢に我慢を重ねたんですねえ。
カ:我慢に我慢を?
ク:手を洗うのをです。それでもう、大変に、手を洗うのが少なくなったんです。
カ:少なく?
ク:はい。回数が・・・1日に洗う回数も手を擦る回数も、少なくなりました。おかげさまで。
カ:ええと・・・課題では、少ないほうは15回で、多いほうは80回と。
ク:あのう、そんなにやらなくて、済んだんですね。
カ:ん・・・済みましたか。
ク:ええ。そのかわり、我慢をしてましたけれども。先生は、大丈夫と思えたなら、やらなくていいとおっしゃいましたけど・・・本当には、大丈夫だとは思えなかったんですが(笑いながら)・・・先生には申し訳ないんですが、我慢しちゃったんですね。
カ:ああ、そうですか。
ク:でも、最初は我慢のしっきりだったんですが、だんだんと大丈夫になっていって。
カ:そうですか。
ク:最初のうちはねえ、ええと、土曜日(前回面接は金曜日)あたりは、大変でしたねえ、我慢するのが。だけど、あとはだんだんと、1日増しに大丈夫になっていって。
カ:結局、全然やらなかったんですか?
ク:もちろん、普通に洗うのはありますよねえ。普通の、正常の範囲で洗うのは。でも、あとはほとんど洗わないで済んじゃう。
カ:ほとんど?
ク:ええ。ですから、たとえ洗っても、簡単に5回から15回ってところでしょうねえ。
カ:前回の面接の時までは、多いほうが70回、少ないほうは10回は擦らないと気が済まないとおっしゃって。
ク:ええ、だから、済んじゃう。気が済んじゃうんですねえ、今は。だから、70回のほうが15回くらいになって、10回のほうが5回かそのくらいになったんですよねえ。
カ:ああ、そうですか。・・・そうすると、課題のほうは、ちゃんとできなかったですね。観察のほうも・・・
ク:そうですねえ。でも、大変よくなったんで。
カ:ええ、そうですねえ。
ク:本当に、ねえ。
カ:でも、あのう、少しは観察できました? もし少しでもできたのなら、お聞かせいただけると、今後の方針の参考になると思いますので。
ク:ああ、そうですか。・・・そうですねえ・・・でも、それがねえ、観察するよりも、だんだんとよくなっていったんでねえ。
カ:ええ。
ク:最初はね、自分で我慢して、言い聞かせていたわけですよ、大丈夫だって。それがだんだんと、日増しによくなってきたんですよねえ。
カ:ああ、そうですか。
ク:今朝あたりなんか、すごくいいと思います。全然違ってきましたねえ。
カ:全然違ってきましたか。
ク:ええ、おかげさまで。・・・なんだか、暗闇から外へ出たって感じで。
(略)
カ:ご家族の方々の対応はどうですか?
ク:そうねえ・・・やっぱり家族が、わりかた暖かく包んでくれますから。
カ:ああ、そうですか。
ク:ええ。そうじゃないとやっぱりねえ、悪くなっちゃいますよねえ。
カ:そうかもしれませんね。
ク:主人が優しい声をかけてくれれば、良くならなくちゃな、自分でも頑張らなくちゃいけないな、と思いますもの。
カ:そうですか。
ク:ええ、前までは、主人なんか口うるさく言ってたんで、私もカーッとなって、余計に悪くなっちゃいますよね。それがね、今日なんかも、大変だな、頑張れよって、お店に出る前に優しく声をかけてくれて。そうするとやっぱり、良くならなくちゃなと思うんですねえ。それで私も洗わなくなってきてねえ。
カ:奥さんが洗わなくなってきたんで、ご家族の方々も、きっと喜ばれているんでしょうねえ。
ク:あ、そうですねえ。やっぱり違うんですねえ。それもあるでしょうね。
カ:そうすると、お互いに助け合っているわけですね。
ク:あ、そうですねえ。
カ:素晴らしいご家族ですね。
ク:ええ、ありがとうございます。
カ:奥様も、ご主人も、お子様方も。
ク:ええ、ええ。子供たちもね、私が洗ったり我慢したりしてるのを、黙って見ていてくれましてね。それで、良くならなくちゃなと思いましてね。
(略)
カ:ですが、まだ(症状が)残ってますね?
ク:ええ、まだ残ってます。でも、もうちょっとなんで。ちょっと気になって洗うくらいなんですよ。
カ:ちょっと気になって洗うくらいですね。
ク:ええ。ほとんどは大丈夫ですねえ。
カ:で、ちょっと気になって洗う時、確か先ほど5回か15回擦るとおっしゃってましたね?
ク:ええ。だいたいそのくらいです。
カ:あのう、つまり、少ないほうが5回で、多いほうが15回ということですね。
ク:ええ、そうなんです。でも、日増しに良くなってますからねえ。
カ:ああ、そうですか。
ク:ええ、ええ。最初のうちは苦しかったですよねえ。我慢していると歯ぎしりするほどでしたから。それが今はね、あっと思っても、洗わずに楽に済んじゃいますよねえ。
(略)
カ:(1日に洗う回数も、1回に擦る回数も)もう、全然なくなって・・・いえいえ(笑い)、少なくなってきましたが、少なくなっただけではなくて、きっちりと治してしまいたいでしょう?
ク:(笑いながら)ええ、そうですねえ。
カ:課題を続けてみてほしいんですよ。ただ、擦る回数は少ないですし、ちょっと気になって洗ってしまう時だけで、もちろんいいんですが。
ク:ああ、そうですか。分かりました。
カ:少ないほうは10回です。(両手を擦り合わせながら)1・2・3・4・5・6・7・8・9・10です。そして、多いほうは20回お願いします。(両手を擦り合わせながら)1・2・3・4・5・・・(数え続ける)・・・16・17・18・19・20ですね。
ク:ああ、そうですか。
カ:数が少ないですから、そのぶん真剣にやられて、真剣に観察してくださいね。ええと、声を出して数える。ゆっくりと通して数える。それと、ご家族の方々にはまた話されてくださいね。
ク:ええ、分かりました。けれど、観察といっても、なんだかもう洗わなくて済んじゃうような気がするし、このまま治っちゃうような気もしますけどねえ。
カ:おっしゃるように、このまま治ってしまうかもしれません。けれど、万全を尽くしましょうよ。もしものことを考えて、観察しておきましょう。
ク:そうですか?
カ:ご家族の方々に何とおっしゃるか、また言っていただいてよろしいですか?(笑い)
ク:ええ、ええ、よろしいですよ。(笑い)
(略)
〈電話連絡〉
第4回面接から1週間後、クライエントから電話で連絡があり、症状がまったく起きないということなので、まだ残っている面接回数(5回分の面接の契約をした)は「貯金」ということにして、いつでも来談できるような形で終結した。また、完治したというクライエントの報告に対して、カウンセラーは、「多分あなたの治りたいという気持ちが強く働いたためなんでしょう」と応答した。なお、家族の者ともとてもうまくいっているとのことであった。
〈予後〉
終結から2ヶ月後、クライエントの長女(心理学専攻の大学生、カウンセラー志望)から電話連絡があり、18年間苦しんできた症状がきれいにとれた様子を伝えてくれた。また、2年3ヵ月後、クライエント本人から以下のような電話連絡があった。すなわち、終結から6ヵ月後、下痢をしたのがきっかけで症状が再発しそうになったが、「また(面接期間と)同じように我慢に我慢を重ねれば」必ず治癒するという確信とそれによる安心感があったのと、何よりも家族に対して迷惑をかけたくないという思いがあったので、結局は再発せずに済んだ。そして、それ以後まったく何事もなく元気で過ごしているとのことであった。
(小川隆之 生月誠 1992 逆説志向の適用過程の分析 ―強迫行為のケース― カウンセリング研究,25,112−121.より)
2014年08月14日
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