2013年01月13日

ボディストッキングを操作する(過去ブログより再録)

1.玉葱の皮むき

ボディストッキング(表層筋膜)は下層にある筋群(筋−筋膜を含む)の活動に応じて滑走しますが、その動きには筋群のそれとは異なる規則性があります。その滑走は筋群の活動から自由でなければなりません。両者が互いの動きを抑制し合うのであれば、その相互的な抑制を解除することがボディワーカーの最初の仕事となります。オープンパス・メソッドはこの考え方をアイダ・ロルフ(ロルフィングの創始者)から学びました。
アイダ・ロルフは言います、「外側から働きかけ、内側へ入りなさい。たいていの施術者は、内側、つまり彼らの言う『原因』からスタートする。それが『原因』なのかもしれない。しかし私にとっては、そんなことはどうでもよいことだ。ただし、そこからはスタートできないと言わせてもらおう。現に起きている問題を解いていくための場所(外側)からスタートしなければならない」と。
例えば胸部の触察を行って小胸筋の拘縮を発見したとします。小胸筋はボディストッキングの深部、大胸筋の下層に存在します。この場合、多くの施術者は真っ先に小胸筋のリリースを考えるのではないでしょうか。しかしロルフ・ワーカーは(「アイダ・ロルフの言葉に従うのであれば」と断っておきましょう)その最表層にあるボディストッキングに対してまず働きかけます。具体的には「玉葱の皮むき」を行うように下層にある小胸筋を始めとする(大胸筋、前鋸筋などの)筋群の上で滑走させます。
これはロルフ・メソッドの第1セッションにおいてしばしば行われる方法ですが、この方法によって下層の筋群がリリースされることが多々あります。つまり「それが『原因』かもしれない」と思っていたものが解消されることさえあるのです(ボディストッキングの締め付けが解かれて、下層にある筋群の緊張も解ける)。

2.ボディストッキングは筋群の上を滑走する

ボディストッキングの動きには筋群のそれとは異なる規則性があると先ほど述べました。筋群はそれぞれの付着部どうし(起始部と停止部)が近づく方向へ(つまり関節を働かせるように)動きますが、それに応じたボディストッキングの滑走はかなり複雑です。
ボディストッキングは全身を包み込んでいますが、部位によって滑走の仕方が異なっています。例えば腕や脚を覆う部分は関節の角度が狭くなる側から広くなる側へと、近くを通って、あるいは遠回りをしながら滑走します。また体幹を覆う部分はそれとは全く別の動き方をします。
何らかの原因でこれらの滑走が上手くいかなくなったとき、ボディストッキングに何が起こるでしょう。またその影響はどのようなものでしょう。ある部位では強く引き伸ばされ、他では重なるように寄せ集められて、言ってみれば無理に着せられたサイズの合わない服のような状態となり、全身に大きな負担をかけてしまうでしょう。それを着ている人にとっては肘や膝を曲げることも大変な苦労となるに違いありません。
このようにして関節の動きが悪くなった場合、ボディストッキングの滑走を妨げている原因を発見し、それを解消しなければなりません。そしてその原因の多くは下層の筋群との粘着や癒着なのです。

3.ボディストッキングの滑走を妨げる粘着や癒着とその解消

ボディストッキングの滑走を妨げている粘着や癒着を発見するにはある程度の(多少の訓練を要する程度の)触察力が必要です。
動きの悪い関節(本人が気づいていない場合には、左右を比較させるなどして調べます)を(自動で)わずかに働かせながら、その周囲の筋群とボディストッキングを交互に触察します。両者が粘着や癒着を起こしていない場合には、それぞれ異なった方向か、同方向の場合でも互いに少しずつズレながら滑走します。粘着や癒着を起こしている場合には、ボディストッキングは一瞬だけ異なる方向へ滑走しかけた後、すぐに筋群と同方向へ全くズレることなく動いていきます(ただし粘着の場合には、関節の動きが大きくなると多少ですがズレ始めます)。
もしも粘着や癒着を起こしている部位を発見したならば、その部位を滑走させることで両者を互いから自由にすることができ、関節の動きは改善されます(ちなみに滑走させるのは「一瞬だけ異なる方向へ滑走しかけた」方向です。この方向が本来の方向であり、それ以外ではあまり上手くいきません)。

4.ボディストッキングと筋群との相互的な抑制の解除例

さてボディストッキングと筋群との相互的な抑制を解除することで得られる利得は、関節の動きが改善されることだけではありません。先に小胸筋の例を挙げましたが、もう1つ挙げてみましょう。
私はあるとき(ロルフ・メソッドのワーカーになって数年のことでした)内転筋群を細かく分化していました。癒着も多かったのですが、長内転筋、薄筋、短内転筋、大内転筋・・・とスムーズに筋どうしの分化は進みました。ところが施術後も内転筋群の動きはあまり自由にならず、全体が1つの塊のように見えました。
次のセッションで再び内転筋群に挑戦しました。細かく動きを指示しながら個々の筋を触察していくと、ある発見をしました。個々の筋が活動するたびにボディストッキングはその動きと同方向へ捩れるように引っ張られるのです。私は試しに下層の内転筋群からボディストッキングをはがすように滑走させました。すると1つの塊のようだった内転筋群が個々に分化して、ハンモックのように柔らかく骨盤と大腿骨からぶら下がりました。筋群の動きはたちまち洗練されました。
もう少し丁寧にボディストッキングに対して働きかけていれば、意図的に正確な滑走を起こさせていれば、内転筋群の分化を行った時点ですでに同様のことが起こっていたに違いありません。

5.参考文献からの引用

拙著『これがボディワークだ』および『エンドレス・ウェブ』から、表層筋膜(=ボディストッキング)の定義、その他の文を引用いたします。

「〈表層筋膜〉を次のように定義したいと思います。すなわち『〈表層筋膜〉とは、皮下脂肪のすぐ下層に存在する筋膜で、全身的に連続している』と(ちなみに皮下脂肪の上層には、表皮と真皮があります)。そして、それ以外の筋膜については〈深層筋膜〉とし、『各臓器を被っている筋膜』と定めておきましょう。また、〈表層筋膜〉と〈ボディストッキング〉は等しいものとします」『これがボディワークだ』(日本評論社刊)

「『むすぼれ』を解くためには、解きやすい場所から始めるべきです。『むすぼれ』の中心から手をつけたら、外側の状態が悪くなる可能性もあるでしょう。また、1枚ずつ『皮むき』を繰り返すことで、クライアントは自分の身体に『現に起っていること』そして『これまで起こってきたこと』を自覚することができます。そのことによって、現在の身体を作ってきた『習慣』をも解くことが可能となります。ですから、『外側から内側へ』という方法は、身体に対する負担が少ないうえに、非常に教育的であり、『再発』も起りにくいのです」『これがボディワークだ』(日本評論社刊)

「人の身体は、内的なシステムであり、私たちは皮膚と筋膜という環境の中に存在します。頭部は、下肢から伝えられる緊張の対側の先端になります。環境内の適切な長さと伸張は、身体中の至る所に、適切なトーンを作り出します」『エンドレス・ウェブ』(市村出版刊)
この記事へのコメント
あなたの内容はすばらしかった。勉?しています。
Posted by 宮藤潤 at 2013年07月10日 14:17
コメントをありがとうございます。
Posted by 小川 at 2013年07月11日 07:48
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