2013年01月14日

動作における「人間的要素」(過去ブログより再録)

1.トーマス・マイヤースのワークショップに参加して


以前、『アナトミー・トレイン』の著者であるトーマス・マイヤース(注1)がロルフ・ワーカー向けのワークショップを行ったことがあります。私はそのワークショップに参加しました。『アナトミー・トレイン』に沿って基本12セッション(ロルフィングの場合、基本セッションは全10回)を解説および実習する内容でした。そのワークショップの中でマイヤースが述べた2つのことが深く心に残りました。

1つはロルフィングが技法体系として成熟するためには技法の有効性がアイダ・ロルフ(注2)という創始者(のカリスマ性)とは独立して認められなければならない(マイヤースは「アイダ・ロルフの名が忘れ去られなければならない」とまで言いました)ということ、もう1つはロルフィングの「レシピ」(注3)には「人間的要素」に対応する働きかけが含まれていないということです。

前者に関しては、ロルフ・ワーカーにとってアイダ・ロルフを忘れ去ることなどできないでしょうが、現時点においてロルフ・メソッド(注4)の有効性は創始者の名に関わらず、広く認められ始めているのではないでしょうか。

後者の「人間的要素」によってマイヤースが言いたいのは「回旋運動」ということです。私たちのどの生活動作にも必ず回旋運動が含まれているし、それによって身体の「捻じれ」が引き起こされることが多々あるとマイヤースは言います。ところがロルフ・メソッドの「レシピ」にはそのことに対応する働きかけがないということです。こうした見解からマイヤースは、ロルフ・メソッドには存在しない「スパイラル(螺旋)・セッション」を『アナトミー・トレイン』のシリーズ・セッションの中に設けたわけです。

マイヤースのこの見解を聞いた当初、それによってセッション回数を(ロルフ・メソッドの)10回から12回に増やしたということに関しては疑問を持ったものの、「人間的要素」云々に関してはロルフ・メソッドを実践する者として納得させられるところもありました。確かに、屈曲、伸展、内転、外転に応じた(もしくは関わる)働きかけはあっても、回旋に応じた働きかけはこれというものがありません。


(注1)アイダ・ロルフからロルフィングを学んだ第1世代のロルファー。著書に『アナトミー・トレイン』があります。

(注2)ロルフィングの創始者。生理学者。

(注3)ロルフィングは全10セッションを通して姿勢や動作を整えていきます。1回ごとに目的があり、働きかける身体部位もほぼ決まっています。これらの内容を「レシピ」と呼んでいます。アイダ・ロルフによって考案されたものです。

レシピについて、ロルファーでありシンインテグレーション創始者であるマーク・カフェルが以下のように述べています。「レシピを知的に知るだけでは役に立たない。レシピを実践することからくる経験が、あなたを施術者として成長させる。個人的な発展への道が開かれるのはそれからだ。でないと、あなたの前には混沌だけしか待っていない」

(注4)アイダ・ロルフが考案した「レシピ」をベースとするボディワーク技法。ロルフィング、ギルド・ストラクチュアル・インテグレーション、ヘラーワークなど。


参考文献:トーマス・マイヤース 著/松下松雄 訳『アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線』(医学書院)

小川隆之、斎藤瑞穂 著『ボディワーク入門 ロルフィングに親しむ103のテクニック』(朱鷺書房刊)

小川隆之、斎藤瑞穂 著『これがボディワークだ 進化するロルフィング』(日本評論社刊)



2.「レシピ」を技術レベルで読み直すと・・・


しかし実は、「レシピ」を技術レベルで読み直してみると、各セッションの中に「回旋運動」に関わる、もしくは「捻じれ」に対応できる働きかけが十分に含まれているのです。

ロルフ・メソッドではどのセッションにおいても必ずライン(注5)に基づいて姿勢や動作の分析を施術前後に行いますが、複数のラインに従って身体を見ると、必然的に「捻じれ」を発見しやすくなります。たとえば左から見た横のラインと右から見たものとがズレている場合を考えてみましょう。横のラインは耳介、肩峰、大転子、腓骨頭、外果の5箇所を通りますが、左のライン上で大転子が右と比較して前方に位置しているなら骨盤が右回旋(時計回り)していることが予測できます。前後の正中ラインに関しても同様の見方ができます。

ロルフ・メソッドの全「レシピ」中で横のラインにもっとも関わりのある第3セッションでは、たとえば腸骨稜、胸郭側面、肩甲骨上で用いるテクニックに少しの工夫を加えるだけで、しかもボディストッキングを操作することで(ボディストッキング=表層筋膜。ロルフ・メソッド第3セッションは表層のセッションです)骨盤や体幹の「捻じれ」に対応できます。


(注5)正式には「ロルフ・ライン」と言います。身体を観察・操作する際に参考にされる架空のライン。横のライン、正中ラインなど。



3.浅筋膜、深筋膜、筋−筋膜・・・


以前、ボディストッキングについて以下のように述べました。

「ボディストッキング(表層筋膜)は下層にある筋群(筋−筋膜を含む)の活動に応じて滑走しますが、その動きには筋群のそれとは異なる規則性があります。その滑走は筋群の活動から自由でなければなりません。両者が互いの動きを抑制し合うのであれば、その相互的な抑制を解除することがボディワーカーの最初の仕事となります」

ボディストッキングについてもう少し詳しく述べると、それは皮膚(表皮、真皮)や脂肪層の「裏地」となる浅筋膜と、筋群を束ねる深筋膜(部位によって腱膜や筋間中隔などに移行します)との二重構造になっています。したがって滑走が起こらなければならないのは、浅筋膜と深筋膜、深筋膜と筋外膜(筋肉の最外層を包む筋膜。その内層では筋周膜、筋内膜が筋線維を包んでいます)の間においてです。

この、浅筋膜、深筋膜、筋−筋膜(筋外膜、筋周膜、筋内膜)と連なる筋膜のネットワークを把握できれば(「知的に把握できる」だけでなく「手技的に到達できる」という意味で)、ボディストッキングの操作はかなり容易になります。「捻じれ」への対処においても、このネットワーク上の、少なくとも関連部位の浅筋膜、深筋膜の状態を把握できれば、その修正が容易になるのはもちろんです。
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