1.「フルコンタクト・カラテ」での体験
私は学生時代に空手を習っていました。高校2年生から大学3年生まで毎日のように道場へ通いました。
当時の空手界では、試合の際には「寸止め」といって、突き(パンチ)も蹴り(キック)も相手に当たる寸前で止めるという方式を取っていました。
ボクシングやキックボクシング以外の「打撃系」格闘技がTVで放映され始める以前のことで、空手界ではこの「寸止め」が当たり前のことでした。「武道」らしい美しい技を競い合って戦うのが、当時の試合のあり方でした。
そんな中で、私が通った道場は「実践カラテ」「フルコンタクト・カラテ」を名乗る流派に属していて、試合で実際に相手を打撃し、倒すか倒されるかで勝敗を決します。
試合が「フルコンタクト」なので、その道場で毎日行われていた組手(二人で組んで行う自由な攻防練習)は当然「寸止め」であるはずがありません。私は必ず体中をアザだらけにして帰りました。
そんな私を見かねて、先輩方がよく、相手の攻撃をかわすコツや方法を教えてくれました。いろいろ教えてもらった中で、もっとも役に立ったのが「相手の攻撃を見ない」というものでした。
相手の攻撃を見なければ、それこそ突きや蹴りの的になってしまうのではないか? 最初はそんなふうに思いました。
けれども、何度かイメトレを繰り返した後、組手で実際に言われたとおりにしてみると、驚いたことに、相手の攻撃が今までの半分ほどしか当たりません。
しかも多くの場合、咄嗟に身体が動いて、相手の突きや蹴りをよけているのです。
私はこの方法を、教えてもらったどの方法よりも優先して練習しました。そして数年後には、どんな攻撃もかわせる自信がついていました。
2.中心視と周辺視
私たちの物の見方には2種類あります。中心視と周辺視です。
中心視は、網膜の中心部(錐体)を使って凝視する見方で、色や形を正確に捉えるのに適しています。
それに対して周辺視は、網膜の周辺部(杆体)を使って視野の周辺を「映す」ような見方で、動きや位置を捉えるのに適しています。また周辺視は無意識的に使われています。
体中をアザだらけにしていた頃の私は、相手の突きや蹴りを目で追っていました。それも、見逃すまいとかなり集中して。
これは中心視を使って相手の攻撃を捉えようとしていたことになります。
それに対して、「相手の攻撃を見ない」方法では、周辺視を使っていたことになるでしょう。「見ない」と言っても、至近距離での攻防なので、もちろん相手の突きや蹴りは視野に入っていて、それを目の端で捉えていたわけです。
周辺視は、中心視より反応速度が速い(これは両者の神経系の伝達経路が違うことによります)ので、素早い反応を必要とする攻防型の競技などでは役に立つでしょう。実際に、スポーツ界ではかなり注目されているようです。
3.ボディワーク・セッションで周辺視を使う
ボディワーク・セッションでは歩行分析を行いますが、私はその際に周辺視を使っています。
クライアントさんに、こちらへ向かって、あるいは遠ざかる方向へ歩いてもらって、その歩く様子を目の端で捉えます。
すると、クライアントさんの動作の中で、動きのない部位が浮かび上がって見えてきます。そこだけ他の部位と協応(co-ordinate)していないのが分かります。
ところが、そこに焦点を合わせると、その「動きのない部位」は見えなくなってしまうのです。つまり、周辺視で捉えたものを中心視で捉え直そうとすると、見えなくなってしまうわけです。
施術中も、周辺視は役に立ちます。
手技の操作が行われるのは、クライアントさんの身体のどこかの部分で、そこに対して中心視が働いています。
しかし、ボディワーカーの意識はクライアントさんの全身に広がっています。つまり周辺視を働かせている状態です。
この状態であれば、手技によるクライアントさんのどんな小さな動きや身体変化も見逃さずに捉えることができるでしょう。
(この話題は、ボディワークの講座やトレーニングの中で常に強調している「受動的注意集中」にも関わってきます)
2013年01月19日
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