Wallon,H./浜田寿美男 訳編 1983 ワロン/身体・自我・社会 子どものうけとる世界と子どもの働きかける世界 ミネルヴァ書房
本書は、1938年から1956年の間に発表された、ワロンの論文を集めたものである。
現代心理学におけるワロンの仕事は、ピアジェのそれと比較することでよく見えてくる。本書では、最終章にピアジェの論文を付すことによって、両者の対比ができ、結果としてワロンの仕事が浮かび上がってくる。
ピアジェは、知能を他の諸領域とは切り離された特権的な領域として捉え、その発達を構造的に整理することによって、人間の全体性を見ていこうとする。ピアジェの描く筋書きはある意味単純で分かりやすいが、その単純化によって人間の全体性を捉え得たかというと、非常に疑わしい。
それに対してワロンは、パーソナリティという、生理・心理・社会的な意味での人間の全体性をそのまま視野に入れて、その発達過程を見ていこうとする。したがって、ワロンの理論が難解に見えるのは、人間を常に全体として捉えようとするその方法のためであり、人間自体の難解さから来ていると言えよう。
ワロンはこの難解さのために(というか、現代心理学における、全体性の放棄、部分の「切り取り作業」という傾向のために)十分に受け入れられないまま、歴史の中に埋もれようとしている。
以下は、ワロンの論文からの引用である。
「子どもがこの時期(およそ生後3ヶ月間)にやれる有効な行動は、ただ泣き声や姿勢や身動きで母親に助けを求めることでしかありません。ですから、子どもが自分に役立てることのできる最初の行動は、外界の対象を手に入れたり、それをよけたりする行動ではなく、人に向けた身振りであり、表現的な身振りなのです(子どもの生活は最初、社会性の関係によって開かれるわけです)。これは非常に重要な点です。人間とはまさに集団からなるもので、人びとはそのなかで儀式や伝統や言語を共有し、それを媒介にして互いに協同し外界を支配するのです。しかし、人びとは互いに助けあって生きていくために、最初はまずそういう媒介なしに支えあっていかなければならなかったのです」
2013年02月03日
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